米国 TSCA | TSCAインベントリー上の化学的アイデンティティに関するCBI請求のレビュー手順 | 新規化学物質届出制度

米国で新規化学物質を製造もしくは輸入をする際には,TSCA (有害物質規制法: Toxic Substances Control Act)に基づき,新規化学物質届出をしなければならない.
TSCA Section 8(b)に従い,2017年のactive-inactive ruleに基づき,TSCAインベントリーに収載されている物質をForm AもしくはForm Bで報告するように要求され,収載されているすべての物質はactive or inactiveに指定された.物質の化学的アイデンティティを保護するため,申請者はCBI (Confidential Business Information: 企業の秘密情報) 請求をすることができた.
化学的アイデンティティがリバースエンジニアリングを通じて容易に発見可能かどうかを確認するため,2つの追加質問を含め,CBI請求のレビュー手順(Procedures for Review of CBI Claims for the Identity of Chemicals on the TSCA Inventory: TSCAインベントリー上の化学的アイデンティティに関するCBI請求のレビュー手順)が最終化された.

以下に本法規の概要を説明する.

  • 法規
    • Procedures for Review of CBI Claims for the Identity of Chemicals on the TSCA Inventory (法規①): WEBPDF
    • TSCA Inventory Notification (Active-Inactive) Requirements (法規②): WEBPDF

  • 所管当局
    • EPA (米国環境保護庁: Environmental Protection Agency)

  • 届出者 (§710.43 (法規①))
    • 対象 (§710.43(a) (法規①))
      特定の化学的アイデンティティ(化学物質名やCAS番号など)に関して,既存のCBI 請求を維持することを要求し,Form Aを提出した者

    • 免除 (§710.43(b) (法規①))
      (1) §710.37(a)(1)に規定されている自主的な立証プロセスを完了した者は,§710.45(b) 1~6の質問への回答提出を免除される.ただし,§710.45(b) 7~8の質問への回答は提出する.

      (2) 以下(i)および(ii)の条件に合致し,§710.45の全ての質問の回答情報を届出することによって,Form Aでの化学的アイデンティティのCBI 請求を以前に立証した者

       i) 2015/11/1以降にEPAに立証を提出した
       
       ii) 届出日,届出タイプ,case number,そしてtransaction IDもしくは立証を含む以前の届出のidentifierをEPAに報告する者

  • 届出種類 (§710.47 (法規①))
    • 立証届出
      §710.43(a)または(b)(1)に従って,立証を届出しなければならない.
    • 免除届出
      §710.43(b)(2)に基づく免除を求める者は,§710.43(b)(2)(ii)の情報を届出しなければならない.

  • 届出内容 (§710.45(b) (法規①))
    1. Will disclosure of the information claimed as confidential likely cause substantial harm to your business’s competitive position? If you answered yes, describe the substantial harmful effects that would likely result to your competitive position if the information is disclosed, including but not limited to how a competitor could use such information and the causal relationship between the disclosure and the harmful effects.

    2. To the extent your business has disclosed the information to others (both internally and externally), has your business taken precautions to protect the confidentiality of the disclosed information? If yes, please explain and identify the specific measures, including but not limited to internal controls, that your business has taken to protect the information claimed as confidential.

    3. (i) Is any of the information claimed as confidential required to be publicly disclosed under any other Federal law? If yes, please explain.

      (ii) Does any of the information claimed as confidential otherwise appear in any public documents, including (but not limited to) safety data sheets; advertising or promotional material; professional or trade publications; state, local, or Federal agency files; or any other media or publications available to the general public? If yes, please explain why the information should be treated as confidential.

      (iii) Does any of the information claimed as confidential appear in one or more patents or patent applications? If yes, please provide the associated patent number or patent application number (or numbers) and explain why the information should be treated as confidential.

    4. Is the claim of confidentiality intended to last less than 10 years? If yes, please indicate the number of years (between 1-10 years) or the specific date/occurrence after which the claim is withdrawn.

    5. Has EPA, another Federal agency, or court made any confidentiality determination regarding information associated with this chemical substance? If yes, please provide the circumstances associated with the prior determination, whether the information was found to be entitled to confidential treatment, the entity that made the decision, and the date of the determination.

    6. Is the confidential chemical substance publicly known (including by your competitors) to have ever been offered for commercial distribution in the United States? If yes, please explain why the specific chemical identity should still be afforded confidential status (e.g., the chemical substance is publicly known only as being distributed in commerce for research and development purposes, but no other information about the current commercial distribution of the chemical substance in the United States is publicly available).

    7. Does this particular chemical substance leave the site of manufacture (including import) or processing in any form, e.g., as a product, effluent, or emission? If yes, please explain what measures have been taken, if any, to guard against the discovery of its identity.

    8. If the chemical substance leaves the site in a form that is available to the public or your competitors, can the chemical identity be readily discovered by analysis of the substance (e.g., product, effluent, or emission), in light of existing technologies and any costs, difficulties, or limitations associated with such technologies? Please explain why or why not.

  • 届出期間 (§710.47 (法規①))
    • 2020年11月1日まで

  • 届出後の管理 (§710.53 (法規①))
    • 届出者は,EPAに報告した情報を2020年11月1日から5年間保持しなければならない.

  • EPAのその後の対応 (§710.55 (法規①))
    • レビューや承認・拒否
      Form AのCBI要請は,TSCA Section 14および40 CFR Part 2, subpart Bに従い,レビューされ,承認または拒否される.
    • 保護期間
      2016/6/22より後の場合,特定の化学的アイデンティティは,最初のCBI請求から10年間開示されるのを保護される.
    • TSCAインベントリーの更新
      Form AのCBI請求のレビュー結果に基づき,EPAは,TSCAインベントリーを定期的に更新する
    • すべてのレビュー予定日
      すべてのレビューが完了するまで,EPAは,各年の初めにレビューの年間目標と前年度に完了したレビューの数をEPAのウェブサイトに公開する.レビューは2024/2/19までに完了する予定である.
    • 延長
      レビューに関する目標完了日を達成できないと判断した場合,延長およびすべてのレビューを2年以内に完了する連絡をFederal Registerで公開する.

  • 参考
    • EPA CBI claim情報 (HP)

以上

米国 TSCA | CDR (Chemical Data Reporting) | 新規化学物質届出制度

2020年3月,EPAはCDR受領者の負担を軽減し,収集されるCDRデータの品質を改善し,レポートの要件をTSCA改正法に合わせるため,CDR規則を修正した.修正に伴い,CDRの届出期間は2020年6月1日から11月30日までに変更された.

CDR規則では,TSCAインベントリーにリストされている特定の化学物質の製造者(輸入者を含む)は,化学物質の製造,加工,および使用に関するデータを4年ごとに報告する必要がある.

以下にCDRの届出概要を説明する.

  • 法規
    • TSCA Chemical Data Reporting Revisions Under TSCA Section 8(a): WEBPDF

  • 所管当局
    • EPA (環境保護庁:Environmental Protection Agency)

  • 対象者
    • 米国の既存化学物質の製造者(輸入者含む)

  • 届出期間
    • 2020年6月1日から11月30日まで

  • 対象物質
    • 単一のサイトで,任意の暦年中(2016~2019年)いずれかに,商業目的で製造もしくは輸入した25,000ポンド(11,340kg)以上の報告可能な化学物質
    • 一般的に,TSCAインベントリーに収載されている物質が対象となる可能性がある(一部の物質は免除となっている)

  • 報告のための必要な情報 (概要)
    1. 申請者情報
    2. 企業およびサイト情報
      a. 国内親会社情報
      b. 海外企業情報
      c. サイト情報
    3. 化学物質情報
      a. 化学物質特定情報
      b. テクニカルコンタクト情報
      c. 製造情報
      d. 加工および使用情報
    4. CBI証明

  • 報告方法
    • CDX (Central Data Exchange)を用いてEPAに提出する

  • 申請フォーム
    • Form U

  • 参照:
    • EPA CDR情報 (HP)
    • EPA CDRの規制当局 (HP)
    • TSCA section 8(a)に基づくCDR改訂 (HP)
    • CDR改訂による報告概要 (HP)
    • 2020年のTSCA CDRの報告説明書 (HP, PDF)
    • Form Uのサンプル (HP)
    • 2020年のCDRのFAQ (HP)

以上

米国 TSCA | 新規化学物質届出制度

米国で新規化学物質を製造もしくは輸入をする際には,TSCA (有害物質規制法: Toxic Substances Control Act)に基づき,新規化学物質届出をしなければならない.届出制度の概要を以下に説明する.

* TSCAにおいて,製造は輸入も意味する.

  • 所管当局
    • EPA (米国環境保護庁: Environmental Protection Agency)
  • 届出者 (§720.22 (法規②))
    • 米国で商業目的で新規化学物質を製造(輸入)しようとする者
  • 届出物質
    • 対象物質 (§720.22 (法規②))
      • 新規化学物質 (TSCAインベントリーに収載されていない物質)
        新規化学物質は届出の対象物質であるので,次項の届出種類に基づき対応しなければならない.

    • 対象外物質(§720.30 (法規②))
      新規化学物質だとしても,以下項目は届出の対象外となる.

      • 化学物質ではない物質
      • 混合物(混合物自体は届出の対象外だが,混合物に含まれる個々の物質は届出の対象になりうる)
      • §720.36に基づく営利目的の研究開発(営利R&D)向け新規化学物質
      • §720.38に基づくテストマーケティング向け新規化学物質
      • 輸出専用新規化学物質
      • 燃料物,もしくは廃棄,または成分物質を抽出する副産物
      • 以下化学物質
        • 不純物
        • 商業目的で使用されない副産物
        • 環境要因や暴露に付随した化学反応から生じる化学物質
        • 保管または廃棄に付随した化学反応から生じる化学物質
        • 最終使用時に発生した化学反応から生じる化学物質であり,商業としての流通または中間体としての使用のために製造された化学物質ではない.
        • 使用時に発生する化学反応から生じる化学物質
        • 安定剤や着色剤などが意図した通りに機能,もしくは,特定の生理化学的特性を付与することを意図した化学物質が機能するときに発生する化学反応から生じる化学物質
        • 単離されていない中間体
      • 非営利目的の研究開発(非営利R&D)向け新規化学物質
  • 届出種類 (TSCA section 5 (法規①), §720.40 (法規②))
    新規化学物質は製造前に,以下項目に基づき届出をしなければならない.

    • 通常届出
      PMN (製造前届出: Pre-manufacture notification)
      数量の制限は特にない.届出後,NOC(Notice of Commencement; 初回輸入届出)を提出すると,TSCAインベントリーに収載される.

    • 免除届出 (§723.50, §723.175, §723.250 (法規③))
      PMNは免除されるが,免除届出はしなければならない.

      • TME (テストマーケティング免除: Test Marketing Exemptions, §720.38)
        テストマーケティング用の新規化学物質が免除届出の対象となる.
      • LVE (少量免除: Low Volume Exemption, §723.50)
        年間10,000kg以下まで製造可能となる.製造の30日前には提出しなければならない.
      • LoREX (環境への放出が少なく,人への暴露が少ない化学物質: Low environmental releases and human exposures, §723.50)
        環境への放出が少なく,人への暴露が少ない化学物質が免除届出の対象となる.製造の30日前には提出しなければならない.
      • Film article exemption (インスタント写真および剥離フィルム製品の製造または加工に使用される化学物質: Chemical substances used in or for the manufacture or processing of instant photographic and peel-apart film articles, §723.175)
        インスタント写真および剥離フィルム製品の製造または加工に使用される化学物質が免除届出の対象となる.

    • 届出除外
      PMNは免除され,免除届出も不要.ただし,輸入後の管理などが必要となる.

      • 営利R&D (R&D exemption, §720.36 (法規②))
      • ポリマー (Polymers, §723.250 (法規③))
  • 届出期間
    • 通常届出
      PMN:製造の90日前には提出しなければならない.

    • 免除届出
      • TME:製造の45日前には提出しなければならない.
      • LVE:製造の30日前には提出しなければならない.
      • LoREX:製造の30日前には提出しなければならない.
      • Film article exemption:製造時に提出しなければならない.

    • 届出除外
      ポリマー:製造前に提出は不要.ただし,最初の製造後,翌年1/31までにポリマー免除レポートを提出しなければならない.
  • 必要情報
    • PMN (§720.45, §720.50 (法規②))
      • 化学的同一性情報 (CA名称; Chemical Abstracts Name, CAS RN; CAS Registry Number, 分子式, 化学構造式)
      • ポリマーの場合,以下情報
        • モノマーおよび反応物の化学物質名称 (2wt%以下の場合も同様)
        • モノマーおよび反応物のwt%,およびモノマーの最大残留量
        • ポリマーの数平均分子量および500未満および1000未満の低分子量の測定値
      • 不純物
      • 新規化学物質の商品名
      • 新規化学物質の製造,加工,使用および廃棄に起因する副産物
      • 最初の年の推定製造最大量および最初の3年間の任意の12ヵ月の推定製造最大量
      • 用途カテゴリーの説明,および各用途カテゴリーでの推定生産量,商業的製剤もしくは消費者用途での新規化学物質の%
      • 届出者が管理するサイトでの情報
        • 新規化学物質の製造,加工,または使用サイト
        • 新規化学物質の製造,加工,または使用オペレーションのプロセスの説明,および新規化学物質の排出ポイント
        • 従業員活動や従業員が暴露しうる新規化学物質の性状(液体,気体,粉体など),従業員数,保護具などを含む,従業員暴露情報
        • 排出量や性状,使用されている技術管理を含む新規化学物質の環境排出情報
      • 届出者が所有または管理する新規化学物質に関する試験データ
      • 届出者が既知または合理的に確認できる新規化学物質の人健康および環境影響関連データ

    • LVE, LoREX (§723.50 (e) (2) (法規③))
      • 製造者のアイデンティティ
      • 化学的同一性情報 (CA名称; Chemical Abstracts Name, CAS RN; CAS Registry Number, 分子式,化学構造式)
      • 不純物
      • 新規化学物質の商品名
      • 新規化学物質の製造,加工,使用および廃棄に起因する副産物
      • 最初の年の推定製造最大量および最初の3年間の任意の12ヵ月の推定製造最大量
      • 用途カテゴリーの説明,および各用途カテゴリーでの推定生産量,商業的製剤もしくは消費者用途での新規化学物質の%
      • 届出者が管理するサイトでの情報
        • 新規化学物質の製造,加工,または使用サイト
        • 新規化学物質の製造,加工,または使用オペレーションのプロセスの説明,および新規化学物質の排出ポイント
        • 従業員活動や従業員が暴露しうる新規化学物質の性状(液体,気体,粉体など),従業員数,保護具などを含む,従業員暴露情報
        • 排出量や性状,使用されている技術管理を含む新規化学物質の環境排出情報
      • 届出のタイプ
      • 届出者が所有または管理する新規化学物質に関する試験データ
      • 届出者が既知または合理的に確認できる新規化学物質の人健康および環境影響関連データ
      • 届出を満たす証明
      • サニタイズされた届出(秘密情報を隠した届出)のコピー

    • TME (§720.38 (法規②))
      • 化学物質安全性データ(物理的データ,人健康毒性データ,環境毒性データ),もしくは構造活性相関データおよび化学物質類似物質のデータ
      • 製造の最大量
      • 化学物質を提供する最大人数
      • 化学物質に暴露しうる最大人数
      • テストマーケティング活動の詳細.期間など.
      • 料金支払い番号

    • ポリマー (Polymers, §723.250 (法規③))
      製造前の届出は不要.ただし,最初の製造後,翌年1/31までにポリマー免除レポートを提出しなければならない.その際に必要な情報は以下になる.

      • 製造者名 (製造者の名前,住所,技術担当者の名前,電話番号)
      • 製造されたポリマーの数
  • 審査後の対応・管理 (§720.78, §720.102 (法規②), §723.50 (法規③))
    • PMN
      • NOC (初回輸入届出: Notice of Commencement, §720.102)
        PMNに基づく最初の製造後,30日以内にEPAにNOCを提出しなければならない.その際に以下情報が必要となる.
        • 化学的同一性情報
        • 化学物質総称名 (化学物質情報が非開示の場合)
        • PMN番号
        • 製造開始日
        • 届出者の名前と住所
        • 責任者名
        • テクニカルコンタクトの名前と電話番号 (任命している場合)
        • 製造場所の住所
        • CBI有無

      • 管理 (§720.78 (a))
        以下情報を,製造開始日から5年間当該情報を保管しなければならない
        • 製造の最初の3年間の数量
        • 製造開始日
        • 当該情報の書類

    • 営利R&D (§720.78 (b))
      以下情報は,作成後5年間保持しなければならない.
      • 健康への潜在的なリスクのレビューおよび評価された情報のコピーまたは引用
      • 通知の種類と方法を文書化
      • 実験室の手順の文書化
      • 製造者以外の化学物質の行き先 (社名,住所,物質の名前,数量)
      • 化学物質の数量,廃棄情報 (年間100kgを超える場合)

    • TME (§720.78 (c))
      以下情報は,最後の製造後,5年間保持しなければならない.
      • 申請書類
      • EPAによって示された制限情報

    • LVE, LoREX (§723.50 (n))
      新規化学物質の製造者は,製造場所(または輸入サイト)で以下記録を製造後5年間保管する必要がある.
      • 年間の製造量
      • 要件や制限を遵守した記録

    • Film article exemption (§723.175 (j))
      新規化学物質の製造者は,最後の製造から30年間以下記録を保管する必要がある.
      • 年間の製造量.開始日も含めること.
      • 暴露モニタリング情報.最低でも以下情報を含める.
        • 新規化学物質情報
        • モニタリングの日付
        • モニタリング場所のデータ
        • 収集や分析技術の詳細
      • 訓練および暴露記録.従業員に対する訓練の参加記録
      • 排水の処理記録

    • ポリマー (Polymers, §723.250)
      ポリマーの製造者(輸入者含む)は,製造から5年間以下情報を保管しなければならない.
      • 合理的に確認できる範囲で,化学的アイデンティティ情報の確認
        • 化学物質名およびCAS番号
        • 代表的な構造図
      • ポリマーが免除を遵守していることを示す情報
      • 最初の3年間の製造量の記録と製造開始日
      • ポリマー免除のどの基準を満たすかを示す情報
      • 数平均分子量がポリマー免除基準を満たすことを示すデータ (GPC dataなど)
      • 低分子の基準がポリマー免除基準を満たすことを示すデータ (GPC dataなど)
      • 可能であれば,化学的アイデンティティを示す分析データもしくは理論的計算
      • ステートメント(ポリマー免除遵守を示す)の作成

以上